2012年4月1日日曜日

ユーラシア大陸横断に見る物作りの可能性



先日、ユーラシア大陸を自転車で横断してきた大学生達の愉しい話を聞く機会に恵まれた。


加藤くんと田澤くん。バイタリティーあふれる大学院生であり、トライアスリートでもある。

私の世話になっている自転車屋の組み上げた自転車で、大陸20,000kmを無事走り切ったのだ。
その道のりは素晴らしい人との出会い、過酷な環境、美しい景色と写真とともに彼らの素晴らしい経験を共有できるのは、このIT時代の恩恵とも思える。

彼らの経験してきたことをココで語るのは野暮ってなもんです。
彼らの言葉は直接受け取ることが礼儀ですし、よりリアルだからです。

↑よろしければじっくりとご覧ください。


そんな私はと言うと、自転車屋で組み上げられる自転車をその過程から見ていたのもあって、20.000km走りきった機材をこの目で見たかった。

物作りの現場にいる人間として、これほど長時間過酷な環境に置かれることは非常に貴重なことで、ちょっとした造りの違いも大きな差となって現れるからです。

その自転車はこちら↓


もうね、ボロいの一言。
絶対盗まれないと思うほどボロい。

新品をまたがったこともあったが、いやはやよく走ったものです。

前後に荷物キャリアを付けたのもあって、フル装備重量は80kg。
コレにさらに人間の重量もかかってくるのですから、フレームに対するストレスは相当なもの。

しかも中央アジアのバンピーな路面からくる振動などもあって、荷物キャリアは補修された個所もありました。

しかし秀逸だったのはクロモリのフレーム、タイヤ、ステンレス製荷物キャリア。
それらから感じたことをココでは書いていこうと思う。

1.クロモリのフレーム
人類史上、もっとも長く使われている鉄。
その進化の上にあるクロモリ(クロームモリブデン鋼)。
現代ではアルミやカーボンにとって変われてしまいましたが、それは自転車が”早く遠く”に行く道具として進化する上では当たり前の変化です。”早く遠く”に行く進化の過程で”軽く丈夫”な材料を選択してきたのです。
クロモリはその強度や材料特性から考えるに、しなやかな金属で金属疲労を起こしにくく丈夫。ですが重量に関しては重い部類に入ります。

アルミであったなら、金属疲労より溶接の二番手からのクラック破断の可能性が高く、なお且つ溶接修理するにも温度管理が難しく特殊技能が要求されるため、街中の修理工では手を出すのも難しい。また、カーボンであるならば長期間風雨と紫外線にさらされる状況は、紫外線劣化を起こしグズグズになる可能性が高く、フレーム修理は不可能。

こんな条件からクロモリを選択したわけですが、これほどの環境を想定した設計を行うことは少ないと思います。ですが流石に”枯れた技術”、わけもなく20,000kmを走りきったのです。

生活に身近な物作りであるならば、最新の材料・技術を惜しみなく使うことがほとんどです。
しかし私の過去経験した業界では確かな技術として、古く枯れた技術を使うことが多い。

設計的適材適所を考える場合、視野を広く持ち確かな選択が成功のカギになる。
そんな素晴らしい教材になる逸品でした。


2.タイヤ
驚いたのがパンクしたのはたったの1回。しかもリアタイヤだけ。
20,000kmも過酷な路面を走り続けてきたのに、たったの1回です!!

もちろんコンパウンドは完全になくなっていましたが、どれだけ強固なケーシングをしていたのでしょうか。

タイヤの構造の主となるケーシング。
その強度を上げれば上げるほど、タイヤとしては重くなってしまいます。
自転車としては”軽く”仕上げることを目指すと、”重く丈夫”な物は避けて通ります。

しかし、今回は可能な限り壊れないものを選んだわけですから、この選択は大正解。
合成樹脂でありますから、紫外線劣化による割れは避けられないですし、力も想定以上かかっていると思います。

これだけの設計強度を持った製品を市販しているなんて、商売のラインとしては非常に厳しい物づくりをしていると思います。

日本メーカーの凄さを改めて感じました。


3.キャリア
溶接の現場にいた人間として大変興味深いサンプルとなったのが”キャリア”。
前後でその造りが異なっていたからです。

”前”はステンレス周長溶接・バフ研磨・酸洗い品。
”後ろ”は鉄スポット溶接・塗装仕上げ。

業界っぽい書き方をしましたが、この差は大きい。

前は錆びもなく折れることはなかったが、後ろは錆びまくり・塗装は浮き・最終的には折れてました。

その差を一つずつ説明しましょう。

(1)ステンレス
一般の鋼にNiを多量に含ませ、鋼材表面に強力な酸化膜(不動態)を生じさせたもの。
非常にち密な表面構造により、酸化が深いところまで起きにくく錆びを進行させない。
つまり錆びにくい。

(2)周長溶接
溶接による金属同士の接続をスポットが”点”ならば”面”で行う方法。
接する面積が大きく、構造的強度を得やすく、なお且つ補強にもなる。

(3)バフ研磨
溶接部分を観察した方は見たことがあると思うが、さざ波のように金属が波打っているのが基本。それを磨き平滑に仕上げることにより、空気環境下にさらされる表面積を減らすことにより、さびにくくする。

(4)酸洗い
溶接により高い熱をかける環境は、劇的な酸化反応を呼び、材質を大きく変化させる。
しかし酸溶液により溶接部分を処理することにより、不動態の再形成を多少ながら起こすことができ、ステンレスの特徴を大きく落とすことなく構造材として使用できる。

これだけの差が前後のキャリアにあったのです。

これだけの差があれば”前”が丈夫なのはうなづけます。
ですが驚いたのは丈夫だった”前”よりも、輸入品の”後ろ”の方が価格的に高かったこと。

”前”のキャリア造ってるメーカーは凄い。
これだけ贅沢な造りの製品を、より安価に市場に出している。
もぅ頭が下がります。

各メーカーの物づくりもさることながら、20,000kmを走りきる自転車をしっかりと組み上げた自転車屋の目利きの凄さにも改めて驚かされた。

物を造る上での知識と目利き。

コレができなきゃ安物買いの銭失いになる。

ホント、いろんな勉強ができたイイ夜でした。

自転車って素晴らしい!!!

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